戦略テーマの概要

戦略テーマは具体的な箇条書きのビジネス目標であり、これによって、進化するエンタープライズビジネス戦略にSAFeのポートフォリオビジョンが結び付けられる。戦略テーマは、ポートフォリオ内の意思決定のビジネスコンテキストとなり、価値のストリームやリリース列車への投資に影響を及ぼす。また、ポートフォリオバックログおよびプログラムバックログの入力にもなる。ポートフォリオビジョンのほとんどの要素はコンテキストがあってはじめて理解できるものなので、明白な事柄を戦略テーマで改めて述べる必要はない。それよりも、戦略テーマでは、現在の状態から未来の状態へと進むための差別化要因(現在の競合との差別化要因も含む)を記述する。戦略テーマは構造化プロセスで作成するとよい。そこでは主要なビジネス上の入力を考慮し、ポートフォリオビジョンへと向かう変化を明確に際立たせる少数の目標のリストを作成する。

詳細

図1に示すように、SAFeのポートフォリオビジョン価値のストリームポートフォリオバックログから構成され、それらによってアジャイルリリース列車が進められ、この列車によって意図した価値が実現される。適用したSAFeそれぞれのポートフォリオビジョンは、価値のストリームの既存のビジネスコンテキストと一連の戦略テーマの両方が基になって作成される。戦略テーマは具体的な箇条書きのビジネス目標であり、これによって、進化するエンタープライズビジネス戦略にポートフォリオビジョンが結び付けられる。

Portfolio Vision for an instance of SAFe in the enterprise

図1. 企業におけるSAFeのポートフォリオビジョン

さらに大きな全体図(ビッグピクチャー)

実務者が数百人の企業では、通常は1つのSAFeによって、一連のソリューションを整理するのに必要なポートフォリオプログラムのメカニズムをすべて提供することができる。ただし、それより大きな企業では、数多くの価値のストリームが存在し、ストリーム間の接続が比較的まばらになることが多い。そのような場合には、図2に示すように、SAFeを複数適用した方がよいことがある。

Figure 2. the Bigger Picture of SAFe in the Enterprise

図2. 企業におけるSAFeのさらに大きなビッグピクチャー

それぞれの事業部門が、エンタープライズビジネス戦略を達成するための役割を持ち、その目的のために予算を割り当てられる。そしてSAFeのポートフォリオビジョンのいくらかは、その戦略テーマによって導かれる。

戦略テーマの策定

戦略テーマの定義は、戦略策定の一部であるが、1つのSAFeポートフォリオというコンテキストで行われる。戦略策定を行うための考え方には、非常に幅広いさまざまなものがある。技術分野で現在流行していて影響力が強いものに、ジェフリー・ムーアの一連の基礎本[1]とリーン・スタートアップ[2]がある。より具体的な戦略策定方法も、さまざまなものが流行している。ビジネスモデルキャンバス/リーンキャンバス、Strategic Planning for Dummies(サルでも分かる戦略計画)や、その他にもジム・コリンズのBeyond Entrepreneurship[3]など数多くのものがある。SAFeのコンテキストに合わせて構成した図3では、その方法の主な側面を明示している。そのそれぞれについて、以下のセクションで簡単に説明する。

Figure 3. A strategic theme formulation approach

図3. 戦略テーマ策定方法の一例

図3では、戦略テーマはプロセスの出力になっている。ポートフォリオの利害関係者はこのプロセスによって一連の入力を体系的に分析し、結論を得る。規律ある方法で入力を分析すると、たいていは極めて明白な出力が作成され、「結論に飛び付く」や「声の大きい人が勝ち」といったさまざまなやり方の中から道理に基づいた方法を選び出すのに、分析プロセス自体が役立つ。入力要素それぞれについて、以下で説明する。

プログラムポートフォリオ予算。SAFeプログラムポートフォリオの年間運営予算(または人やリソースの割り当て)がポートフォリオ戦略の費用の上限となる。

企業のビジネス要因。企業のビジネス要因には、進化するエンタープライズ戦略が反映される。現在のビジネスコンテキストは十分に理解されているため、これらには現在の戦略からの変更が反映されているはずである。たとえば、「若年層にアピールする」(電子商取引の会社の場合)や、「新しい種類の証券の取引を行う」(証券会社の場合)、「事務管理部門のストレージをクラウドに移す」などの要因がある。

財務目標。収益、採算性、市場シェア、リーンポートフォリオメトリックス、あるいはその他の測定基準のどれで測定するにしても、事業部門の財務成績の目標は明確にしておかなければならない。これらの測定基準は、企業のビジネス要因を定量化し、実施可能な戦略テーマを作成するために必要である。

使命、ビジョン、中心的価値。リーダーたちは、使命とビジョンと一連の中心的価値を統一して制定しなければならない。これらには事業部門のより大きな目的と信念の体系が反映されていて、戦略策定の境界を示す。

競争環境。競合分析によって、最大の脅威やチャンスのある領域が明らかになる。

特徴的な能力。競合よりも本当に賢明な会社など存在しない。SAFeでは自分の会社と競合他社が知性面では同等であると考える。自分の方が賢明ではないと気付けば、同じでないことが可能だしそうでなければならないことにも気付く。差異の最高の形は、本当に得意な事柄、つまり現在の成功の基となったビジネスのDNAを強調することである。特徴となる新しい能力を身につけるのは困難なため、成功をもたらす戦略では、ほとんどの場合、特徴的な能力をまずは掘り下げ、それから広げていくことで差別化を行う。

戦略テーマの例を以下にいくつか示す。

  • FOREXの取引を行うためのプロダクトと操作サポートを実装する
  • 一般的な3つのソフトウェアプラットフォームを画一的に使用できるようにする
  • ポートフォリオアプリケーションから他のエンタープライズアプリケーションにシングルサインオンできるようにする

戦略テーマは、ポートフォリオ全体に戦略を伝えるうえで重要なツールである。これは記憶しやすい単純な枠組みとなり、プログラムの納品にかかわる全員の思考に浸透するものでなければならない。

戦略テーマのポートフォリオビジョンへの影響

作成された戦略テーマは、ポートフォリオビジョンの主要な入力となり、ポートフォリオに関する経済面の意思決定フレームワークの要素となる。また、価値のストリームとARTの財源、ポートフォリオバックログ、個々のARTビジョンおよびロードマップに影響を及ぼす。これを図4に示す。

Figure 4. Influence of Strategic Themes

図4. 戦略テーマの影響

価値のストリームとARTの予算

戦略テーマは、ポートフォリオビジョンを実現するために必要な支出と人の割り当てに使われるART予算に大きな影響を及ぼす。この割り当てを行うときには、以下の点を考慮する必要がある。

  • 価値のストリームや、価値のストリーム内のARTへの現在の投資には、現在のビジネスコンテキストの変化が反映されているか
  • a) 新規のプロダクトやサービス、b) 現在のプロダクトやサービスの機能拡張、c) 保守およびサポート作業に対して、それぞれ適切な額が投資されているか
  • 新しい戦略テーマに合わせてどのような調整が必要か

ポートフォリオバックログ

戦略テーマは、ポートフォリオカンバンシステム内の意思決定フィルタとなり、結果としてポートフォリオバックログに影響を及ぼす。戦略テーマと同調することで、以下が生じる。

  • じょうごおよびバックログ状態のビジネスエピックおよびアーキテクチャーエピックの特定、成功基準、優先順位付けが影響を受ける
  • 分析状態の軽量ビジネスケースについて検討や議論が行われるようになる
  • 実装状態のエピックの分割方法や実装方法が影響を受ける場合がある

プログラムのビジョンと優先順位

最後に、アジャイルリリース列車も完全にポートフォリオビジョンのコンテキスト内で動く。そのため、戦略テーマが進化すると直接的に影響が及ぶ。ここで、プロダクト管理は戦略テーマをもとにビジョンとロードマップを改訂し、プログラムバックログ内の項目に対するWSJFによる優先順位付けの属性を変化させる。ポートフォリオから流れてきた、あるいはその場で発生したプログラムエピックもまた、現在のテーマから影響を受ける。さらに、戦略テーマは、列車間で概念的な整合を取るための重要な手段であり、その影響の大きさから、リリース計画中にビジネス責任者に提示されることも多い。


Learn More

[1] Moore, Geoffrey. Crossing the Chasm (1991, 2014)(邦訳:キャズム、翔泳社、2002), Inside the Tornado, (1995 and 2004)(邦訳:トルネード、海と月社、2011) と Escape Velocity (2011)(邦訳:エスケープ・ベロシティ、翔泳社、2011). Harper Business Essentials.

[2] Ries, Eric. The Lean Startup: How Today’s Entrepreneurs Use Continuous Innovation to Create Radically Successful Businesses. Random House. 2011.(邦訳:リーン・スタートアップ、日経BP社、2012)

[3] Collins, Jim and W. Lazier. Beyond Entrepreneurship. Turning Your Business into a Great and Enduring Company. Prentice Hall, 1992.

 

Last update: 2 June, 2014

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