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ジョン・スカリ

 

ポートフォリオビジョンの概要

ビッグピクチャー(全体像)の最上位にはいくつかの要素があり、それが全体として、1つのSAFeポートフォリオ内の複数のプログラムに対するポートフォリオビジョンを表す。ポートフォリオビジョンには、詳細なエンタープライズビジネス戦略が反映され、それに向けて行動を起こすことが表明される。これは最初、価値のストリームの中で表現され、それによってプロダクトやサービスについての長期にわたる主要な付加価値のあるフローが特定される。価値のストリームは、それぞれに確定された予算(列車に指定された予算)に応じてアジャイルリリース列車で実装される。ポートフォリオビジョンのその他の要素はポートフォリオバックログを通される。ポートフォリオバックログには、より大きなビジネス目的を達成するために列車で実装しなければならないビジネスエピックやアーキテクチャーエピックが含まれる。

詳細

ポートフォリオビジョンは、企業で適用した1つのSAFeの中で最上位のソリューション定義であり、ガバナンスである。ここで行われた意思決定に基づいてポートフォリオの経済面全体が進められるため、リーン-アジャイルなやり方で効率よくポートフォリオを管理することが重要な問題となる。図1は、ポートフォリオビジョンの要素と要素間の関係を概観したものである。そのそれぞれについて、この後で説明する。

Figure 1. Portfolio Vision

図1. ポートフォリオビジョン

エンタープライズビジネス戦略

開発チームの作業をビジネスと確実に同調させるには、エンタープライズビジネス戦略が開発/ITコミュニティの我々に見えていなければならない。この戦略により、ビジネス目標が定義され、組織モデルが推進され、企業がビジネス目標全体を達成するのに必要な主要な開発の取り組みが特定される。

また、ソフトウェア実務者が500人から1000人を超えるような大企業では、関連性の強いアプリケーションやプロダクトやサービスを担当する事業部門や同等の部門ごとに、戦略が既に具体的に設定されていることが多い。非常に大規模な場合には、おそらく企業内でSAFeが複数適用されていて(図1を参照)、それぞれが複数または単一の、相乗的なプログラムをサポートしている。

適用されたそれぞれのSAFeの中で(実務者が2、300人の企業の場合には1つのSAFeの中で)、エンタープライズビジネス戦略を変換し、ポートフォリオビジョンとして記述しなければならない。ポートフォリオビジョンには、ビジネス戦略のうち、その関心領域の受託者責任を負う役員や管理者が担当する要素を記述する。多くの場合、彼らはさらに、ポートフォリオ管理者やプログラム管理者などの支援を得る。ここでは、このような担当者をすべて含めてプログラムポートフォリオ管理と呼ぶ。

図1に示すように、結果として作成されるポートフォリオビジョンは、この戦略によって決定され、SAFeのいくつかの概念や成果物に反映される。

価値のストリーム

最初に行わなければならない意思決定は、ポートフォリオの価値のストリームそれぞれにどうリソースを割り当てるかである。価値のストリームは、ニーズの評価、開発、配置というプロセスを含む、長期にわたって繰り返される一連のステップであり、ある種の価値の継続的なフローをもたらすシステムを納品するために使われる。これを図2に示す。

Figure 2. Value Stream

図2. ソフトウェアの価値のストリーム

多くの組織(独立ソフトウェアベンダーなど)では、価値のストリームは、具体的なプロダクトやサービスと相互に関係しているため、明白かもしれない。しかし、中には(大規模なIT会社など)価値のフローがそれほど明白でない組織があり、SAFeをもっとも効率的に適用する方法を理解するために、「価値のストリームの発見」という重要な分析作業が必要になることがある。(詳細は価値のストリームを参照のこと。)

アジャイルリリース列車

 

図3. アジャイルリリース列車

価値のストリームは、質の高いソリューションを理解し納品するために使われる抽象概念である。また、具体的な種類のソリューションについて理解および分析し、市場投入までの時間を短縮するためにも使われる(価値ストリーム分析)。ただし、それ自体を実装することはない。実装には人が必要であり、それはアジャイルリリース列車の目的だからである。

アジャイルリリース列車(ART)は、価値のストリームの中の価値を実現(定義、構築/テスト、配置)するために作成するアジャイル開発組織である。ARTには、作業を行うのに必要な複数の チームと、必要な特殊リソースがあればそのリソース、そしてプログラム管理、UX、およびアーキテクチャーについての「ちょうど必要なだけの」指導が含まれる。ARTの規模は、必然的に50~125人に制限される。これは、効果的な人の付き合いや、1つの大きいソフトウェアプログラム内で効率的に扱える諸設備、相互作用、依存関係をサポートできる規模である。(詳細はアジャイルリリース列車を参照のこと。)

予算

価値のストリームの多くは、1つのリリース列車で実装するのが自然な規模である。これは偶然ではない。ソフトウェアの納品はこれまで何十年にもわたって最適化されており、それを支えるための組織パターンも進化しているからである。ただし、価値のストリームの規模が大きすぎて数百人以上のソフトウェア実務者が必要になる場合には、テーマごとに複数のARTに分割する必要がある。

このように大規模な場合には、価値のストリーム内のそれぞれのテーマに割り当て可能な投資額を管理する必要がある。そのために予算という用語を使用して、各列車の目的と割り当てられる投資額とを記述する。これを図3に示す。

Figure 3. Larger value streams must be split into multiple Agile Release Trains, and budgeted accordingly

図3. 規模の大きい価値のストリームは、複数のアジャイルリリース列車に分割し、それぞれに予算を割り当てる必要がある

ポートフォリオではこのメカニズムによって、現在のビジネスの状況に応じて、時間に沿って、または時間をさかのぼって、価値のストリームの中の投資を管理することができる。

予算管理の分散による納品の加速

各列車のある期間に対して具体的な予算を割り当てると、その範囲内で意思決定をする権限が列車自体に与えられる。素早い行動をするにはこの権限は欠かせない。これは、一度決定されれば、影響範囲内の取り組みに必要な財源を入手するために、列車の担当者がポートフォリオまでさかのぼる必要がなくなるという点で、リーンの非中央集権の原則に沿っている。

ポートフォリオカンバンとポートフォリオバックログ

価値のストリームが完全に自立したものであれば、SAFeポートフォリオ内の価値と予算を判断するメカニズムは不要になる。ただし、1つ重大な問題が残っている。「複数の列車にまたがるビジネス戦略の重要な要素をポートフォリオで実装するにはどうすればよいか」である。これらは、一部またはすべての列車に影響する、中央集権的な取り組みである(「すべてのソリューションをJBossに移行する」など)。当然ながら、ポートフォリオビジョンにはこの問題に対処する手段が必要である。この作業は、目に見えるよう表現し、慎重に検討し、適切な範囲で計画しなければならないからである。

これが、ビジネスおよびアーキテクチャーポートフォリオのカンバンシステムの目的である。ここで、ビジネスエピックアーキテクチャーエピックが特定され、分析され、承認されればポートフォリオバックログを通じて実装のスケジュールに組み込まれる。この目的での可視化は、特別なポートフォリオバックログ予算を使って行う。

ポートフォリオバックログに独自の予算は必要か?

予算面から考えると、適切なポートフォリオエピックを実装するための処理能力を企業で確保する方法は2つある。

1) 予算期間ごとの開始時に、その期間の運営予算すべてを列車に割り当てる。この場合、それぞれの列車が目的に応じた相対的な割り当て分を受け取ることになる。ただし、その予算の一部は、プログラムではなくポートフォリオのバックログ項目の実装に使われることが前提となっている。(つまり、「予算はこれですべてだ。だが、ポートフォリオの取り組み用にサービス費用を集金に来ても驚かないように」ということである。)

2) 使用できる予算すべてを列車に割り当てるのではなく、ポートフォリオエピックの実装に使用できる予備の予算を確保しておく。

後者に対する反論としてすぐ思いつくものが、「新しい取り組み(エピック)用にお金を用意して既に走り始めている列車に与えたからといって、そのエピックを実現するための作業を展開するのに必要な人やその他のリソースを列車が入手できるとは限らない」である。ただし、実際には、額に応じた仕事ができることをどの管理者も知っていて、彼らは財源をいくらか追加すればより多くの価値を納品できるだけの力を持っている。そのため、予備の予算を確保する方法は、実績のある実用的な予算メカニズムであると言える。

まとめ

ポートフォリオビジョンには、1つのSAFeにおける複数のプログラムを含むポートフォリオの包括的なビジョンを表す、価値のストリーム、予算、およびポートフォリオバックログエピックが含まれる。価値の納品に集中できるよう、リーン-アジャイルな企業では、その価値のストリームを中心に組織をまとめ、それぞれを実装するためのARTを作成し、ARTごとに1つの予算枠を用意して予算割り当てを管理する。ポートフォリオバックログ用の特別な予算枠には、横断的なビジネスエピックやアーキテクチャーエピック用の予備の予算が含まれる。

このようにすれば、戦略や、価値のストリーム、予算編成、横断的エピックについてのポートフォリオレベルの意思決定を中央集権的に行うことができ、それと同時に、使命を果たすのに必要な予算および意思決定の権限を各ARTに与えることで、実装を非中央集権的に行うことができる。


さらに知りたい場合

[1] Leffingwell, Dean. Agile Software Requirements: Lean Requirements Practices for Teams, Programs, and the Enterprise. Addison-Wesley, 2011. (邦訳:アジャイルソフトウェア要求:チーム、プログラム、企業のためのリーンな要求プラクティス、翔泳社、2014)

[2] Reinertsen, Don. Principles of Product Development Flow: Second Generation Lean Product Development. Celeritas Publishing, 2009.

Last update: 06 June, 2014

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